伊勢崎市某所で自生するキンランとギンランの現地調査・観察会が2023年4月22日、開催されました。2015年から始まった当事業、今年で9年目を迎えました。 講師は群馬大学社会情報学部の石川真一教授。参加者は、地元区長会、保護活動関係者、他の「ぐんまみどりの県民基金」事業団体の関係者、群馬大学社会情報学部の学生ら17名。 この自生地でのキンラン・ギンランの開花期は、概ねゴールデンウィーク前後ですが、今年は例年より少し早めでした。 調査観察会の調査時間は2時間。敷地全体を調査するには十分ではなかったため、株数調査は日を改め、5月2日~月4日に実施しました。 今年確認した株数はキンラン321株、ギンラン59株、合計380株でした。キンランは昨年の過去最多記録266株を20%超えました。ギンラン確認数が約半分に減少しましたが、ギンランは背丈が低く、昨年までギンランを多数確認した場所に厚い枯葉や覆土があったことがその主要因と思われます。 日射や風通し、周辺の草木の状況など、キンラン・ギンランを確認した場所の特徴は過年度と同様でした。(→詳しくは2021年の観察記録参照)。以下、2023年の伊勢崎市某所で咲くキンラン、ギンランの様子です。(2023/7/18 記) 調査観察会の様子 2023/4/22 群馬県で絶滅危惧種IB類(2022年改訂版)(*1)に指定されているキンランとギンラン。伊勢崎市の某所で平成10年(1998年)に茎が確認され、2015年春には約30株の開花を確認。その年、平成27年度ぐんま緑の県民基金市町村提案型事業の対象となり、以来、保護保全活動が行われています。(→詳しくはこちら) (*1)群馬県では絶滅危惧種IB類(2022改訂版)、環境省レッドリスト2020(2019度改定)では絶滅危惧II類(VU)と指定。 |
2021年の調査で、株数計測の効率と精度を上げるために、敷地全体を区画割して調査しましたが、今年も同様に調査しました。調査観察会の4月22日の調査時間は2時間で、全体を調査するには十分ではなかったため、全体の生育状況を把握するに留め、株数調査は日を改めました。開花・未開花を区別したカウントはしていませんが、未開花の株のキンラン・ギンランの識別は、茎や葉っぱの太さ、大きさ、周囲で開花している株、過年度の記録などを考慮しました。
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(1)外回りの花から順次開花 2023/4/22 (2)外回り、かつ下側から順次開花 2023/4/22 (3)3株揃って開花 2023/4/22 (4)こんな感じで咲いています。菌根菌を有する根に沿って咲いている? 2023/4/22 (5)キンラン開花周辺の樹木 2023/4/22 |
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(6)2023/4/22 |
(7)過去の茎が残っています 2023/4/22 |
(8)2株隣り合って咲くキンラン 2023/4/22 (9)5株まとまって咲くキンラン 2023/4/22 (10)過去の株を中心に5株まとまって咲くキンラン 2023/4/22 (11)キンランが咲く周辺環境。枯葉は除去し、チップや土を被せない。2023/4/22 |
5月2日の調査区域は、樹木に覆われて日射が少ない場所や、日中の大半、日射を受ける場所など様々。一日中日陰の場所でも開花していますが、日射量が多い場所の方が株は大きいようです。 (12)過去の茎の隣で咲くキンラン、ほぼ開花。 2023/5/2 (13)毎年同じ場所で律儀に咲いてくれるキンラン 20235/2 (14)4株隣り合って咲くキンラン 2023/5/2 (15)毎年同じ場所で咲くキンラン 2023/5/2 |
5月3日の調査区域の大半は、ほぼ一日中樹木に覆われている場所で、群生して咲く株数も全区域の中で最多です。この傾向はここ数年同様です。 (16)一株に付けた花の数が多いキンラン 2023/5/3 (17)周囲の花の色が白いキンラン 2023/5/3 (18)仲良く、くっ付いて咲くキンラン 2023/5/3 (19)こちらも仲良く隣り合って咲くキンラン 2023/5/3 |
(20)キンラン3人衆(真上から) 2023/5/3 (21)キンラン3人衆(横から) 2023/5/3 (22)これは別の場所で咲くキンラン3人衆 2023/5/3 (23)コナラの若葉の間から顔を出すキンラン 2023/5/3 |
(24)大きな樹木の根元で咲くキンラン。菌根菌の親木はこの木でしょう。 2023/5/3 (25)7株まとまって咲くキンラン。外周の花が白いです。 2023/5/3 (26)キンランが群生 2023/5/3 (27)キンランが群生 2023/5/3 |
調査最終日は5月4日。この区域は全区域の中で面積は最大ですが、キンラン、ギンランの確認数は最小です。ほぼ全区域、樹木に覆われています。当保護保全活動が始まった当初、まとまって咲いていた場所からは減少傾向にあり、代わりに生け垣状の低木の下で多くの開花を確認したりと、数年単位で変化しています。 (28)2株隣り合って咲くキンラン。開花の峠を過ぎたようです。2023/5/4 |
調査観察会の4月22日、過去9年間の観察会で始めて全身真っ白なキンランに出会いました。ギンランと異なり葉っぱも真っ白で、枯れた状態でもありません。もっとも、キンランの葉が枯れる場合には白くならずに茶色に変わります。花弁の内側が僅かに黄色く、キンランと確認できます。 石川教授に、「アルビノでしょう。後日、再確認してみてください。」とアドバイスをいただき、11日後の5月3日に再確認すると、葉っぱの一部が少し枯れて茶色に変色しただけで、まだ健在でした。生け垣の根元で咲いていて、直射日光を受けなかったので生育が進まなかったのかも知れません。 ※アルビノ:組織の一部または全体が白くなった変異のうち、突然変異などの遺伝的な原因で生じたものをアルビノと呼ぶ。植物ではアルビノは色素体突然変異 (葉緑体変異) と言う。 |
今年確認したギンランは59株で、昨年の約半分に減少。ただ、確認できたのが59株だっただけで、実際は更に多かったと思われます。その理由は、ギンランは小さい個体では地上部が5cm程度で、昨年までギンランを多数確認した場所3か所のうち1か所については枯葉が厚く堆積し、もう1か所については5cm~10cm程度の覆土が認められたことから、芽を地上に出せなかったと考えています。枯葉が堆積した場所は枯葉を除去すれば復活するかも知れませんが、覆土の場所は死滅するかも知れません。 下の写真は大きめ(10cm~20cm)のギンランで、5cm程度のギンランはなかなか上手に撮れません。”白飛び”現象は、相変わらず回避できませんでした。 (32)過去の茎の脇で発芽したギンラン。キンランに比べて花数が少ない。2023/5/2 (33)これも過去の茎の場所から発芽したギンラン2株。「白飛び」が残念。2023/5/2 (34)2023/5/3 (35)葉っぱも花も立派なギンラン。「白飛び」が残念。 2023/5/4 (36)ギンランがまとまって咲く場所。枯葉混じりの覆土が多い。2023/5/4 |
キンラン、ギンランが自生するこの場所ではシュンランも咲きます。株数は十数株。敷地全体で咲いていたシュンランを一か所に集めた経緯があるようです。薄い黄緑色の花が咲くシュンラン。葉っぱの緑と同系色で地味な花ですが、それがまた素朴で野趣が漂い、愛好者も多いようです。 |
以下、キンランに関するWikipediaの記事引用です。太字と赤色、下線はサイト管理人・丸男が付記。以前の紹介ページにも掲載した内容ですが、重要事項なので再掲します【性質に関して】キンランの人工栽培はきわめて難しいことが知られているが、その理由の一つにキンランの菌根への依存性の高さが挙げられる。多くのラン科植物の場合、菌根菌は落ち葉や倒木などを栄養源にして独立生活している腐生菌である。ところがキンランが依存している菌は腐生菌ではなく、樹木の根に外菌根を形成する樹木共生菌である。<中略> 外菌根菌の多くは腐生能力を欠き、炭素源を共生相手の樹木から供給されているため、その生存には共生関係を成立させうる特定種の樹木が必要不可欠となる。そのような菌から栄養分を吸収しているキンランは、樹木の作った栄養を、菌を通じて間接的に摂取しながら生きているとも言える。 <中略> このような性質から、キンラン属は菌類との共生関係が乱された場合、ただちに枯死することは無いが健全な生長ができなくなり、長期間の生存は難しくなる。自生地からキンランのみを掘って移植した場合、多くの場合は数年以内に枯死する。 <中略> 現在のところ、一般家庭レベルの技術で共生栽培を成功させる手法は確立されていない。 【保全状況】元々、日本ではありふれた和ランの一種であったが、1990年代ころから急激に数を減らし、1997年に絶滅危惧II類(VU)(環境省レッドリスト)として掲載された。また、各地の都府県のレッドデータブックでも指定されている。同属の白花のギンラン(学名:C. erecta)も同じような場所で同時期に開花するが、近年は雑木林の放置による遷移の進行や開発、それに野生ランブームにかかわる乱獲などによってどちらも減少しているので、並んで咲いているのを見る機会も減りつつある。 |