キンラン、ギンラン 2021 [ ぐんま緑の基金・伊勢崎地区 ] [ Home ]



群馬県伊勢崎市で自生する

キンラン、ギンラン 観察記録 2021

2023年|2022年(後日掲載予定)|2021年2020年2019年2018年、2017年2016年2015年
キンラン、ギンランについて(是非お読みください)

調査・観察会 2021/4/25

2021年の確認数可憐・気品、キンラン以前と同じ場所で咲くキンラン周辺でまとまって咲くキンランギンラン
この植物は何?
更新日:2021/7/15 掲載日:2021/6/20
 2021年4月25日、伊勢崎市某所で自生するキンランとギンランの現地調査・観察会が開催されました。2015年から始まった当事業も今年で7年目を迎えました。
 講師は群馬大学社会情報学部の石川真一教授。参加者は、群馬県議会議員時代に当事業の立ち上げにご尽力いただいた伊勢崎市長の臂 泰雄さんや地元区長会、(株)いせさき総合開発の皆さん、他地区の「ぐんまみどりの県民基金」事業団体の関係者、群馬大学社会情報学部の学生ら16名。新型コロナウイルス感染予防対策のため、マスク着用と密着しての観察を避けるなどの対策は昨年同様です。
 この自生地でのキンラン・ギンランの開花期は、年によって一週間程度のズレはありますが、概ねゴールデンウィーク前後。また同じ年でも、早めに咲く個体と遅めに咲く個体の差は2週間程度あり、今年も既に満開状態の株と発芽して間もない株と、様々でした。
 今年の観察日4月25日の開花状態は平年同様で、確認した株数は284株、昨年の過去最多記録199株を超えました(→詳細はこちら)。ただ、この日時点で発芽間もない株も数多くあったので、一週間後くらいに再調査すれば、更に多くの株を確認できた予想されます。今年気付いた点は下記の通りです。

 ■日射量による差異は今年も認められませんでした。日当たりのいい場所と木洩れ日程度の場所、常緑樹に覆われ日射を遮られた場所でも同様に開花していました。日射量と茎の太さとの相関も確認できませんでした。
 ■群生して咲いたキンランの最多は62株。半径2m程の場所に36株、12株、14株と咲き、それぞれの場所が4~5mの距離で隣り合っていました。大半が常緑樹で日射を遮られ、枯葉に覆われていた場所です。
 ■以前咲いた株が残る場所、保護のために木枠で囲った場所、目印のために木杭を打った場所では、大方が今年も発芽しましたが、これらの場所でも、発芽の気配を示していない場所もありました。
 過去数年にわたり、一か所から4,5本の太い茎が伸び、花もたくさん付けた株があった場所で、全く姿を見せなかった場所もあり、以前の印象が強かっただけに、絶えてしまったのかと気になります。来年以降の復活に期待しましょう。

 ■敷地には湿潤場所はなく、人工的な水やりも行っておらず、土の湿潤・乾燥状態は降雨と日射、樹木等による自然任せです。一日中天日にあたる乾燥した場所での株は確認できませんでしたが、湿潤・乾燥に対する特別な配慮は不要のようです。栄養源を菌根菌とするキンラン・ギンランの特性でしょうか。

 菌根菌の存在が重要なキンラン・ギンラン。そのためには菌根菌を発生させるブナ科の親木(*2)の存在も重要。これら親木を絶やさず、下草刈りや落ち葉の処理を適切に行うことも重要。本人が存在し、水や土、肥料があればいいだけの植物と異なり、三位一体のキンラン・ギンラン。自然のサイクルの貴重さを教えてくれます
 以下、4月25日のキンラン、ギンラン調査観察会の様子です。(2021/6/20 記)


調査観察会に参加したメンバー 2021/4/25

 群馬県で絶滅危惧種IB類(2018年部分改訂版)(*1)に指定されているキンランとギンラン。伊勢崎市の某所で平成10年(1998年)に茎が確認され、2015年春には約30株の開花を確認。その年、平成27年度ぐんま緑の県民基金市町村提案型事業の対象となり、以来、保護保全活動が行われています。(→詳しくはこちら

(*1)群馬県では絶滅危惧種IB類(2018年部分改訂版)、環境省では絶滅危惧II類(VU)(2019版)と指定。


(*2)ブナ科の親木
 ■マテバシイ:ブナ目、ブナ科、マテバシイ属、マテバシイ
 ■コナラ  :ブナ目、ブナ科、コナラ属、コナラ
 ■クヌギ  :ブナ目、ブナ科、コナラ属、クヌギ

キンラン・ギンランの発芽と生育3条件

 ■キンラン、ギンラン自身の種子があること
 ■ブナ科(コナラなど)の樹木が存在すること
 ■これに共生する菌類(菌根菌。イボタケ科など)が発生していること

2021年の確認数は284株

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 敷地が広いため、毎年株数のカウントが煩雑になっていたので、今年は、事前に敷地全体を区画割し、区画ごとの記録用紙を準備しました。
 今年の観察日4月25日には、全体的な開花状況は3~4割程度で、まだ蕾の株や、蕾の膨らみも確認できない株がたくさんありました。開花・未開花を区別したカウントはしていないので、未開花の株のキンラン・ギンランの区別は、茎や葉っぱの太さ、大きさ、周囲で開花している株などを考慮して行いました。

2021/4/25に確認したキンラン・ギンランの株数

キンラン ギンラン 合計
204 80 284

(1)一か所から5株のキンラン 2021/4/25

(2)こちらも一か所から5株のキンラン 2021/4/25

可憐・気品、キンラン

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(3)2021/4/25

(4)2021/4/25


(5)キンランは完全に開き切ることはなく、この状態で満開のようです 2021/4/25


(6)一か所から6株のキンラン。まだ完全に開花していません。2021/4/25

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(7)2021/4/25

(10)全身を見てください 2021/4/25


(12)発芽間もない株 2021/4/25

(8)2021/4/25

(9)後ろの気が親木でしょうか 2021/4/25

(11)2021/4/25

(13)発芽間もない株 2021/4/25

以前と同じ場所で咲くキンラン

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 キンラン、ギンラン共に、以前咲いていた場所で咲く株が多いです。GPSを利用する等、正確に以前の位置情報を記録しての比較ではありませんが、下記のアナログ的方法で確認しています。
●以前(恐らく昨年)咲いた茎と葉っぱが残っていて、その隣で今年も咲いた。
●保護管理の一環で、以前咲いた場所を板で囲ったり、木柱を立てるなどしていて、その場所で今年も咲いた。
 一方で、全く新しい場所で発芽したり、昨年まで、背丈が高く花をたくさん付けた立派な株が姿を見せなかったりと、様々です。開花のエネルギを溜めるために小休止しているのか、絶えてしまったのか、今後も継続的に観察して確認してみましょう。

(14)保護用木枠の中で咲くキンラン 2021/4/25

(16)以前の株の位置で発芽したキンラン 2021/4/25

(18)保護用木枠の中で発芽したキンラン 2021/4/25

(20)保護用木枠の中で発芽したキンラン 2021/4/25

(15)以前の株の位置で咲くキンラン 2021/4/25

(17)以前の株の位置で発芽したキンラン 2021/4/25

(19)以前の株の位置で発芽したキンラン 2021/4/25

(21)以前の株の位置で発芽したキンラン 2021/4/25

(22)保護用木枠の中で咲くキンラン 2021/4/25


(23)以前の株の位置で咲くキンラン 2021/4/25

周辺でまとまって咲くキンラン

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 キンランもギンランも一株見つけた後、周囲を良く見渡すと、「あ、ここにも」、「あそこにも」と半径2m程の範囲内に群生して見つかることが多いです。栄養源としている菌根菌を発生させている樹木が同じ樹木のやめかも知れません。一方で、ポツンと孤立した株もあり、群生か孤立か、条件により様々なようです。


(24)この一帯(半径2m程度)でキンラン36株を確認 2021/4/25

(25)この一帯(半径2m程度)でキンラン12株を確認 2021/4/25

ギンラン

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 キンランより茎の背丈も低く、花も小ぶりなギンラン。今年は全体で80株を確認しました。ここに掲載する画像はたった3枚ですが、撮影は十数枚撮っています。白花は、撮影技術が未熟なためか、”白飛び”現象が発生してしまって、花の部分がぼやけてしまい、ほとんど掲載できませんでした。AUTO撮影せずに、マニュアルでシャッター速度や露出を調整すれば”白飛び”を避けることができると思うのですが・・・。来年までに勉強しておきましょう。


(27)2021/4/25

(28)2021/4/25

この植物は何?

掲載日:2021/7/15 ▲ページTopへ
 キンラン・ギンランの調査観察会の日には、キンランとギンランのほかにも、敷地内の様々な珍しい植物にも足が止まります。この道草で、過去の観察会においていくつかの蘭系の植物を見つけました(*1)。
 今年もその場で特定できなかった植物を一株発見。発芽して間もなく新芽が出たばかりで、葉っぱの形も分かりません。この日は写真だけ撮り、特定は宿題としました。

 2週間後の5月9日、改めて訪れると既に成長し、白い花が咲いていました。どうやらナルコユリだったよう。ナルコユリは、白い花の先端が緑色、葉っぱの先は尖り(披針形、または卵状披針形)、葉っぱの付き方は互生(茎に互い違いに付く)、熟した実は丸く黒い等の特徴があります。

 実は我が家にもナルコユリはあり、地下茎が横に這って増え、逞しいです。鉢植えと地植えで育てていますが、鉢植えは鉢の中に地下茎がギッシリと詰まり、地植えは周辺に増殖し続けるので、時々減らします。
 今振り返るに、4月9日に見た発芽間もない姿は、我が家でも良く見かける姿でした。場所が変わっただけですぐに思い付かなかったのは、「何か別の、もっと珍しい植物かも知れない」と期待した心が、観察眼を曇らせたのかも知れません。

 ・・・ところで、ナルコユリはアマドコロ属ですが、ウェブサイトには、アマドコロと同じと示す記事、別と示す記事と両者が見つかります。図鑑(*2)で調べると、
ナルコユリはアマドコロと似ているが、茎はまるく綾がない。またアマドコロの根茎は節間が長いのに対し、ナルコユリの節間は短い」と、区別しています。(2021/7/15 記)

(*1)ラン系の謎の植物(2018年)エゾスズラン(2016年)
(*2)「山渓ハンディ図鑑1 野に咲く花」「(株)山と渓谷社」、1998年4月1日 12刷発行、P437

4月25日には数株でしたが、2週間後には周辺からたくさん出て来ました。 2021/5/9

ナルコユリ。まるい茎、互生の尖った葉っぱ、先端が緑色の釣り鐘状の白い花。2021/5/9

発芽後、間もないナルコユリ 2021/4/25


発芽後、間もないナルコユリ 2021/4/25

開花中のナルコユリ 2021/5/9


開花中のナルコユリ 2021/5/9

開花中のナルコユリ 2021/5/9


開花中のナルコユリ 2021/5/9

キンラン、ギンランについて

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 以下、キンランに関するWikipediaの記事引用です。太字と赤色、下線はサイト管理人・丸男が付記。以前の紹介ページにも掲載した内容ですが、重要事項なので再掲します

【性質に関して】

 キンランの人工栽培はきわめて難しいことが知られているが、その理由の一つにキンランの菌根への依存性の高さが挙げられる。多くのラン科植物の場合、菌根菌は落ち葉や倒木などを栄養源にして独立生活している腐生菌である。ところがキンランが依存している菌は腐生菌ではなく、樹木の根に外菌根を形成する樹木共生菌である。
<中略>
 外菌根菌の多くは腐生能力を欠き、炭素源を共生相手の樹木から供給されているため、その生存には共生関係を成立させうる特定種の樹木が必要不可欠となる。そのような菌から栄養分を吸収しているキンランは、樹木の作った栄養を、菌を通じて間接的に摂取しながら生きているとも言える。
<中略>
 このような性質から、キンラン属は菌類との共生関係が乱された場合、ただちに枯死することは無いが健全な生長ができなくなり、長期間の生存は難しくなる。自生地からキンランのみを掘って移植した場合、多くの場合は数年以内に枯死する。
<中略>
 現在のところ、一般家庭レベルの技術で共生栽培を成功させる手法は確立されていない

【保全状況】

 元々、日本ではありふれた和ランの一種であったが、1990年代ころから急激に数を減らし、1997年に絶滅危惧II類(VU)(環境省レッドリスト)として掲載された。また、各地の都府県のレッドデータブックでも指定されている。
 同属の白花のギンラン(学名:C. erecta)も同じような場所で同時期に開花するが、近年は雑木林の放置による遷移の進行や開発、それに野生ランブームにかかわる乱獲などによってどちらも減少しているので、並んで咲いているのを見る機会も減りつつある。





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