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夜のお話

掲載日:2014/8/7
真っ黒な梢がざわざわと揺れているすき間から、星の明かりがきらめいている。
時おり、ざわざわとイノシシの行進の音が聞こえ、甲高い野鳥の鳴き声がする。
赤城の山の家に遊びに来た子供たちは、いつもは、ベッドに横になると、すぐにすやすやと寝息を立てるのに、今日は、寝付かれないのか、「何かお話して」と頼まれる。

文弥君は今4歳、花菜ちゃんは6歳、小学1年生だね。
文弥君が、8歳になったときには、サッカーや合気道にも通いなれて、
おうちの中でボール遊びしてはダメだよと、ばーちゃんに怒られる。
文弥君は、それでもばーちゃんに隠れてボールをけって遊んでいる。
クラブでは、まだまだ正選手になれないけれど、ボールを追いかけて、日に日に上手になっていく。がんばれ文弥ーと、ママはいつも応援だ。

合気道も、はしゃぐために通うのではなく、稽古に通うようになったね。
              (文弥は嬉しそうな顔をして、聞き耳を立てている)
花菜ちゃんは、学校ではいつも一番を目指して、鉄棒も、マラソンも頑張っているよ。
この前など、隣の席の男の子が、花菜ちゃんに意地悪したら、
そんなことしたらよくないよと、注意したね。
男の子が、ヘンと言っても気にしなかったね。
ちょっと怒りん坊だけど、10歳になったら、我慢するようになったね。
すごいね。

バレーの発表会も3回目が終わり、見違えるように上手になっていたよ。
トーシューズもうまくはけて、つま先立ちなんてへっちゃらだね。
回転も、ステップも、パパヅー、だっけ、ママヅーだっけそれとも、ジーチャンヅーだっけ、じょうずになったね、

文弥君は、20才になったら、爺ちゃんを粟島に連れて行ってくれるの?
そうだよ。
僕が車を運転して、高速道路に乗って、途中黒崎のサービスエリアで朝ご飯食べて、岩船港から、船に乗って連れて行ってあげるよ。
本当かい文弥君?
本当だよ。船からイルカが泳いでいるのが見えるかもしれないよ。
ぼくが、3歳の時、海を見るのが怖かったけれど、船のすぐそばで競争してイルカが一匹ジャパーン、ジャパーンと泳いでいたよ。
その時じいちゃんは、日本はイルカが多くいるので、その泳ぐ音でジャパンと呼ばれるようになったと言っていたよ。
おじいちゃんは昔からいい加減なことを言っていたね、変わらないね。
そうかい、じいちゃんはそんなこと言っていたかい。
それから、粟島で鯛を釣らせてあげるよ。
文弥君、そんなに簡単に言うものじゃあないよ。
鯛がそんなに上手く釣れるものじゃあないよ。
じいちゃんは、まーまーの釣り師だったけど、鯛がいるところまで行かないと釣れないんだよ。沖の磯まで連れて行ってくれなくちゃあ。
解ったよ。
磯まで船で連れて行ってあげるよ。
歩けないじいちゃんをどういう方法で連れて行くんだい。
お姉ちゃんも一緒に行くから、二人で抱えて連れて行ってあげるよ。
そうかい。それなら安心だ。

仕掛けの準備をして、エサを附けて数回あたりを待っていると、
うわー、うわー、鯛がかかった。海の中で頭を振っているからそれで鯛と分かるんだ。
どうしよう。足元は岩場でごつごつしているから、じいちゃんは立てないよ。
僕が竿を持ってあげるよ。
青い海の中の岩の上の魚釣り。まわりじゅう海と空です。
お姉ちゃんが、玉網で鯛をすくうから。じいちゃん逃がさないでね。
わかったよ。上手にリール操作するから玉網を海に入れるのは待ってね。
そーれ、そーれ、鯛が近寄ってきた。
今だ、玉網を鯛の頭のところに持って行くんだよ。
決して、尻尾の方に持って行ってはいけないよ。逃げられるからね。
そーれ、今入れろ。
入ったよ、大きな鯛だよ。50センチはあるね。それとももっとあるかねー。
目の周りが青く、星のような青い点がたくさん赤色の体色の中光っているだろ。
背びれも、胸ひれも立っていて、すごくかっこいいだろ。
これだから、鯛釣りはやめられないんだよ。
血沸き胸躍る(ちわきにくおどる)んだよ。
海からの贈り物だよ。
文弥。花菜ありがとうね。

粟島の夏の海は、まったいらで、波ひとつなく、青々と輝いている。
遠くの入道雲には気を付けないといけないが、
海の雷は、ずいぶん向こうで鳴っていると思っても、すぐさま、近くに来るんだよ。
そのとき、竿を持っていると、竿にめがけて雷が落ちてくるから、
急に来たら、竿はホッテおいて逃げなければだめだよ。
今見える入道雲は、北へ向かっているから大丈夫だけれど・・・。

青い海の中には、数知れない魚や、貝やら、生き物がいるよ。
アジがすいすい泳ぎ、ふぐはふくれっ面して、グレは青く、べらは虹色だよ。
海面はぺちゃぺちゃ小声で話し、水平線は、どんなもんだいと威張っているよ。
ここにこうして、いつまでも居たいね。
海を見て、海の香りを嗅いで、海風に包まれて、
全身が、青い海と、どこまでも透き通った蒼い空に漂っているようだね。
はななちゃんもありがとうね。

はななちゃんは、今22歳だね。
いつもどこかに行っているけれど、何をしているんだい?
私はね、おじいちゃん、今ヨーロッパにいるんですよ。
そこで何をしているんだい?
いろいろ勉強したり、お手伝いしたり、体を動かして飛び跳ねたりいつも忙しいの。
それは、すごいねー。
人生いつまでも勉強だねー。

今度は、おじいちゃんと粟島で魚釣りするので帰ってきました。
小さい時から、粟島にはよく連れてきてくれましたね。
そうだよ、はななちゃんが一歳の時から、年に数回ずつ来ているよ。
ラブラドールのアルちゃんとびっこの銀ちゃんも来たし、バーニーズのノンちゃんとも来たんだよ。
港で海水浴すると、子供たちも、ワンちゃんも大喜びで、つれてきて嬉しかったよ。
何度も何度も、海に飛び込み、また上がり、また飛び込む。
一日中海で遊んでいたよ。
はななちゃんは、おなかが痛くなったり、足じゅうぶよに咬まれて腫れ上がったり、海の中で怪我をしたり、いろいろあったけれど、おじいちゃんとよく来てくれましたね。
文弥とはななちゃんと一緒に海に来るのが一番うれしかったよ。
こんなに、幸せなことはなかったよ。

おじいちゃんは、はななちゃんが22歳になるまで、頑張ったかいがあったよ。
今日は、髪の毛を昔のようにポニーテールにして、青い色の水玉のワンピースだね。
水玉が、海の中のようだし、空を飛んでいるようだし、綺麗だね。
素足に、白い皮のサンダル履きだ。
今は背丈は何センチになったのだね。
小さい時から頭が小さくて、お顔は、こまっしゃれていたよ。
ほれあの、青木さんが、世界一美しいと言っていたでしょ。
ちょっとオーバーだけど、青木さんは本当にそう思っていたんだよ。
6歳の時、お山のお家で、バレーを踊ってくれたけれど、青木さんもおじいちゃんも、なんて美しいんだろうと見ていたんだよ。
それから16年たったんだねー。
おじいちゃんは,もうろくして色々なことが分からなくなったけれど、文弥君は大学で難しい勉強しているようだし、はなちゃんは大学から外国に行ってしまったようだし、ナニワともあれ、二人ともすこやかでうれしいよ。

二人とも、目をキラキラさせて聞いていたが、そのうち、目を閉じて眠ってしまった。
想像する未来は、想像しない未来より実現の可能性が高まる。
こどもたちには、子供たちの未来がある。
僕には、僕のささやかな未来がある。

2014/8/6 近藤蔵人







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