群馬県で絶滅危惧種IB類(2018年部分改訂版)(*1)に指定されているキンランとギンラン。伊勢崎市の某所で平成10年(1998年)に茎が確認され、2015年春には約30株の開花を確認。その年、平成27年度ぐんま緑の県民基金市町村提案型事業の対象となり、以来、保護保全活動が行われています。(→詳しくはこちら) キンラン、ギンランの開花期はゴールデンウィーク前後。毎年この時期に調査観察会が実施され、事業6年目を迎えた今年は5月2日の実施。講師は群馬大学社会情報学部の石川真一教授。参加者は当事業の立ち上げにご尽力いただいた群馬県議会議員 臂 泰雄さんや他地区の「ぐんまみどりの県民基金」事業団体関係者、地元区長会、(株)いせさき総合開発の皆さん。私は当保護活動開始前からの関係者ですが、昨年からは地元区長会の一メンバーとしての参加も兼ねていて、益々引くに引けぬ立場となってしまいました。
今年は新型コロナウイルス感染予防対策のため、参加の呼びかけは緩い範囲に留め、結果的に総勢8名での観察会となりました。戸外なので密集しようもありませんが、全員がマスクを着用した観察会となり、長期間にわたる保護活動の中で記憶に残る観察会となることでしょう。 今年の観察会で特筆すべきは、確認した株数の多さ。記録した分だけで199株ありました。5~6割が開花前だったのでキンランとギンランの比率は不明ですが、開花分ではギンランが2割前後でした。 また、群生していた場所では、数え直す度に1つ2つと増えたので、更に慎重に数え直せば1~2割の増加を確認できたかも知れません。予想ですが、観察会の日に未発芽だった株も含めて250株程度はあるでしょう。 今回新たに発見した群生地が2ヶ所あり。一ヶ所では16株、もう一ヶ所では39株確認できました。後者の39株確認した場所から5mほどの距離では更に11株確認したので、これを一群とすれば50株となり、この発見が今回の確認数増加の大きな要因となりました。 昨年の枯れた茎や位置を示す杭などが残された場所で、発芽さえ認められない場所が十数ヶ所ありました。しばらく休眠するのか絶えてしまったのかは不明です。同一位置での継続的な発芽調査を行えば有効なデータが得られると思いますので、今後の課題です。 日射量による差異は今年も認められず、一日中日射を受ける場所で確認できなかったことを除き、一日中日陰、数時間~半日程度の日射、木洩れ日程度の日射等、それぞれの場所で同様に咲いていて、日射量の多少と茎の大小との相関も確認できませんでした。 土の湿潤の差異による影響も確認できず、敷地全体に特別な湿潤ヶ所もありませんが、乾燥した場所でも咲いていました。栄養源が菌根菌だけではないとしても、表土付近の栄養や水分の影響は少ないのかも知れません。 菌根菌を育てる樹種は今年も明確には確定できませんでしたが、2ヶ所の群生地(5株と31株)において、中心に立つ樹木はマテバシイ(*2)でした。ブナ科の樹木が親木と言われ、マテバシイもブナ科とは言え、今まではコナラ(*3)やクヌギ(*4)が親木と認識していたので、新たな確認です。 生育環境では、伐採した樹木を積み上げないことや下草を刈り取ることが重要ですが、ギンランなどは背丈が5cm程度の茎もあり、また全く枯葉やチップが敷かれていない場所で多数発見され、枯葉に厚く覆われた場所ではほとんど確認できなかったことなどを考慮すると、木材チップや枯葉の厚さは5cm以下が望ましいようです。 以下、5月2日に観察したキンラン、ギンランです。生育環境が難しいながら、愛おしく可憐な花を咲かせる姿をご覧ください。(2020/5/11 記) 開花が始まったキンラン 2020/5/2 (*1)群馬県では絶滅危惧種IB類(2018年部分改訂版)、環境省では絶滅危惧II類(VU)(2019版)と指定。 (*2)マテバシイ:ブナ目、ブナ科、マテバシイ属、マテバシイ (*3)コナラ :ブナ目、ブナ科、コナラ属、コナラ (*4)クヌギ :ブナ目、ブナ科、コナラ属、クヌギ キンラン・ギンランの発芽と生育3条件■キンラン、ギンラン自身の種子があること■ブナ科(コナラなど)の樹木が存在すること ■これに共生する菌類(菌根菌。イボタケ科など)が発生していること |
開花が始まったキンラン。蕾の黄緑に春の息吹を感じます。 2020/5/2 キンラン・下の蕾から開花が始まります。 2020/5/2 満開のキンラン・鮮やか 2020/5/2 |
優雅 2020/5/2 キンラン3兄弟 2020/5/2 キンラン2兄弟 2020/5/2 |
キンラン・立ち姿 |
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良く見ればここに5株 2020/5/2 あと少しで満開 2020/5/2 ヴェールを外すキンラン 2020/5/2 |
少し虫にでも食べられた? 2020/5/2 こちらも枯れた丸太の脇で咲くキンラン 2020/5/2 枯れた丸太の脇で咲くキンラン 2020/5/2 |
キンラン・ギンランが咲く環境 2020/5/2 ここにはギンランが群生 2020/5/2 枯葉積もる場所で咲くキンラン 2020/5/2 枯葉もチップもない場所で咲くキンラン 2020/5/2 |
コナラの根元で咲くキンラン 2020/5/2 マテバシイ(中央)の根元周囲にキンランが群生 2020/5/2 |
半径3m以内に39株のキンランを確認。5m後方には更に11株を確認。 2020/5/2 |
白く小さな花を咲かせるギンラン。鮮やかさはキンランに譲るものの、楚々と遠慮気味に咲く風情は優雅です。 楚々として優雅に咲くギンラン 2020/5/2 |
以下、キンランに関するWikipediaの記事引用です。太字と赤色、下線はサイト管理人・丸男が付記。以前の紹介ページにも掲載した内容ですが、重要事項なので再掲します【性質に関して】キンランの人工栽培はきわめて難しいことが知られているが、その理由の一つにキンランの菌根への依存性の高さが挙げられる。多くのラン科植物の場合、菌根菌は落ち葉や倒木などを栄養源にして独立生活している腐生菌である。ところがキンランが依存している菌は腐生菌ではなく、樹木の根に外菌根を形成する樹木共生菌である。<中略> 外菌根菌の多くは腐生能力を欠き、炭素源を共生相手の樹木から供給されているため、その生存には共生関係を成立させうる特定種の樹木が必要不可欠となる。そのような菌から栄養分を吸収しているキンランは、樹木の作った栄養を、菌を通じて間接的に摂取しながら生きているとも言える。 <中略> このような性質から、キンラン属は菌類との共生関係が乱された場合、ただちに枯死することは無いが健全な生長ができなくなり、長期間の生存は難しくなる。自生地からキンランのみを掘って移植した場合、多くの場合は数年以内に枯死する。 <中略> 現在のところ、一般家庭レベルの技術で共生栽培を成功させる手法は確立されていない。 【保全状況】元々、日本ではありふれた和ランの一種であったが、1990年代ころから急激に数を減らし、1997年に絶滅危惧II類(VU)(環境省レッドリスト)として掲載された。また、各地の都府県のレッドデータブックでも指定されている。同属の白花のギンラン(学名:C. erecta)も同じような場所で同時期に開花するが、近年は雑木林の放置による遷移の進行や開発、それに野生ランブームにかかわる乱獲などによってどちらも減少しているので、並んで咲いているのを見る機会も減りつつある。 |